漢方薬


(2005.2掲載)
 中国に来て、漢方の効果と魅力にとりつかれた。
 漢方は西洋医学の対極にある思想である。人間の体の状態を「熱」・「寒」・「湿」・「乾」に四分類し、中庸を是とする。体は、のぼせすぎても、冷えすぎても、湿りすぎても、乾きすぎても、良くないとされる。体調が悪い、病に罹るということは、これらのバランスが崩れることによってもたらされるゆえ、常に体のバランスを保つことを心掛ける、即ち「熱」の状態の場合は体を冷やす、「寒」の状態の時は体を温めることを考えるのである。例えば同じ風邪でも、体が冷えるケース、体が熱くなるケースがあり、漢方医学的には治療法が異なることになる。漢方医学が体質改善であるのに対し、西洋医学は対症療法であるから、大雑把に言えば、慢性の病気には漢方治療、急性の病気には西洋医学ということになろう。

 街角にある「涼茶舗」をご存知であろうか。
 「涼茶」と言うだけあって、主として供されるお茶は、「上火」・「熱気」と呼ばれる「のぼせた」状態を冷ます作用のあるものが多いが、逆の効果があるものもあるので、要注意だ。一般的に揚げ物や炒め物等脂っこい料理や、塩辛い食べ物、甘みの強い食べ物はいずれも体を熱くする。一方、果物や上海蟹は体を冷やすと言われている。上海蟹を食べた後に生姜茶を飲むのは冷えた状態を元に戻すためである。上海蟹は「寒」、生姜は「熱」であるからだ。「涼茶舗」に行くと、様々な種類の漢方茶があるが、「咳を止め痰を切るお茶」というように、個別・具体的な効果が謳われているものもある。「信じるものは救われる」か、飲むと苦いことこの上ないのだが、体全体がスッキリした感じがするものだ。

 中国においてこういった漢方の文化が最も発達しているのが、広東省であるというのは有名な話であるが、漢方医学についてもここ広東省が最も進んでいる。広州に来てからというもの、故あって漢方医院に行くことが多いのだが、漢方医と言っても馬鹿にすることなかれ、実は西洋医学をちゃんと学んでいるのである。
 前述のとおり、急性の症状には西洋薬を使用しつつ、同時進行的に体質改善のための漢方薬を併用するという治療法は、他に類を見ない。漢方医は、先ず脈を診て、次に舌を診る。舌が赤い時は「熱」、白い時は「寒」、黄色い時は「湿」、また舌の厚さでもって全体的な体調がわかるのだそうだ。舌が厚い時は、要注意である。漢方医院の医師は、脈と舌の状態で、十数種類の漢方薬材の配合を決める。それぞれがそれぞれの効能を持ち、相乗効果を生み出す組み合わせもあるとされる。SARSの際に欠品が相次いだ「板藍根」は漢方薬材の一種である。医師が決めた配合を薬剤師のところに持って行くと、スコップと天秤で一回の口服用の調合が行われる。漢方薬は鉄や銅の鍋で煮てはいけない。必ず土鍋で煮込まないと効果がないと言われている。
 また、漢方薬は誰にでも効果があるわけではない。体質的に胃腸が弱いと体が漢方薬を受け付けず、吐いてしまうこともある。もっとも、胃腸がいくら強くても、吐きたくなるような味ではあるが…。そういう意味では、小さい頃から漢方薬を飲み慣れている中国人と我々日本人とでは効き目が異なるものと思われる。漢方薬は奥が深い。




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