広州人物図鑑


  • 育成年代のサッカー選手の指導に取り組む

はじめまして、菊原志郎です。

今年の1月からサッカー中国スーパーリーグ広州富力足球倶楽部アカデミーで子供たちを指導しています。アカデミーでは14名の日本人スタッフが指導にあたり、2010年生まれから2003年生まれ(中学3年生)までの選手250名ほどが、夢に向かって頑張っています。

私のサッカー選手歴ですが、15歳読売サッカークラブでプロサッカー選手になりヴェルディ川崎と浦和レッズそして日本代表でもプレーしました。選手を引退した後は指導者になって20年をすぎたところです。指導者としては、日本サッカー協会・東京ヴェルディ・横浜F・マリノスで主に育成年代(中高生)の選手たちに関わってきました。2011年にはU17日本代表コーチとしてメキシコで行われたU17W杯(ベスト8)にも参加しています。

広州についての印象

ここに来る前は広州がどんな街かわからず不安もありましたが、温暖な気候で緑が多く人も穏やかで食べ物も多彩と、とても住みやすいと感じています。また交通機関も便利で、自宅から練習場まで地下鉄・APM路面電車・バス・自転車どれでも行くことができます。

サッカー育成年代(アカデミー)の指導について

育成年代の選手の指導は、選手たちが将来活躍するための土台作りが中心。サッカーの基本をしっかり学ばせます。またサッカーはチームスポーツですので、いい選手になりチームの中で輝くためには何が必要か?選手たちは一生懸命考えながら日々努力しています。

現代のサッカー選手に求められるものとは?

サッカーの技術と判断力・戦術理解・運動能力はもちろんですが、協調性や忍耐力と言った人間性や難しい状況での課題解決能力なども必要になっています。

日々の指導で大切にしていること

①人間性の向上
サッカーでトップレベルを目指す過程では、試合に負けたり、試合に出られなかったり、うまくプレーできなかったりと、難しいことが沢山あります。いくつもの困難を乗り越えて目標に辿り着くためには、人間としてどんな状況にも粘り強く対応していく力が不可欠です。

*どんな選手が伸びるのか?
自分の意思をしっかり持っている(夢・目標・考え方)
具体的に何に取り組めばいいかが明確になっている
継続して取り組める(根気)
人のアドバイスに対して素直に聞くことができる
試行錯誤しながら課題を自分で解決できる
粘り強く、忍耐力がある。

*チャレンジ精神と失敗から学ぶ姿勢を大切にする
サッカーは基本的に手が使えず(GKとスローインを除き)足でボールを扱うので失敗がとても多いスポーツです。ただ失敗を怖がってチャレンジしないとプレーを楽しむこともレベルアップすることもできないので、まず選手には積極的にチャレンジさせます。
大切なのはプレーした後にプレーを振り返る習慣です。チャレンジする前にどれだけの準備していたか?チャレンジした後に何を感じたか?次のプレーを良くするために何を学んだか?を選手たちに考えさせています。

*自立
人に言われたことだけをやっていても伸びません。サッカーではチームから言われたことや求められたことをやるのは当たり前。そこから自分で考えどこまでプラスαが出せるのか?そこが面白いところであり個人差が出るところです。まずはいい価値観や基準・習慣を学び、そこから自立に向かわせます。

*協調性(仲間とうまく関わり、グループでいいプレーを作っていく)
サッカーはレベルが上がると個人だけでできることは限られてきます。また個々がいいプレーをするためには、周りの仲間の協力が不可欠です。お互いが助け合える関係を誰とでも築けるようになると、うまくいくプレーが増えサッカーがより楽しくなります。大切なのは自分から先に仲間をサポートすること。仲間に少しでもいいパスを出すとか失敗した仲間をすばやくカバーしてあげる、そうすると仲間も自分のためにサポートしてくれるようになるかもしれません。

②学習能力の向上
サッカーが以前より戦術的になった現代サッカーにおいて、選手の考える習慣・理解する力は選手が成長するために必要不可欠です。
また広州富力アカデミーでは、サッカーだけでなくしっかり勉強することも選手に求めています。長期の大会や遠征時には英語と数学の先生を帯同して毎日2時間の授業を行ったり、学校の成績が良くない場合には1か月の練習参加停止(学習時間確保のため)になる場合もあります。そのため練習前に宿題をしている選手も多く見かけます。

③判断力の向上
サッカーはボールも選手も動いていて、常に状況が変化しています。その中で状況を把握し、素早くいい判断をしていかなければなりません。
いい判断をするために選手たちに意識させていることは、いつ?何を?見ておけばいい判断ができるのかを理解し実践すること、そしていい判断基準を身につけることです。そしていろいろな練習や試合を繰り返しながら、判断力を向上させていきます。

④技術力の向上
サッカーでは周りの状況を確認しながらいい判断をし、正確に技術を発揮していきます。
技術(ボールを止める・運ぶ・蹴る)の練習は日々のトレーニングに必ず入れていて、選手たちは自由自在にボールをコントロールできるようになることを目指しています。

⑤体の強化
思った通りにできるだけスムーズに自分の身体を動かせるように、いろいろな動きを反復しながら正しい動きを体に覚えさせていきます。特に細かい足のステップや方向を変える動き、スピードを変えながら動くことを重点的に行います。

*体幹
相手とコンタクトした時にバランスを崩さないために、また片足で立ってボールを蹴る時に体の軸が安定していいキックができるようにするためには、体の強さが必要です。体幹トレーニングは小学校高学年くらいから始め、簡単なものから徐々に強度を上げていきます。正しいフォームで継続して取り組むことが大切です。
体幹を強化することで、ケガも減ってきます。

*持久力
サッカーは休みなく攻撃と守備を繰り返すため、持久力が必要です。
練習から常に次のプレーを予測して動き続けていくと、体力も向上していきます。

⑥コンディション管理
常に体をいい状態に保つことで、いい練習を継続して行うことができ、ケガの予防もできます。

*疲労回復についてのポイント
食事 基本は好き嫌いなくバランスよく食べる。栄養に関する知識も学ばせます。
睡眠 規則正しい生活リズム(起床・就寝時間)と睡眠時間の確保。
自分が好きなことをすることで気分転換をはかる。(リフレッシュ)
軽い運動やストレッチで血流をアップさせると回復が早まる。

簡単にサッカー選手を目指す選手たちに対する取り組みを紹介させていただきました。ただ実際にはもっといろいろなことを行っています。私は日本代表でもプレーした経験があり、いいプレーを実際子どもたちに見せることができるので、間近で見てもらって真似してもらうようにしています。いいシュートや難しいフェイント・ドリブルを見せると、子どもたちはうわーと言って一生懸命真似してくれます。また、いろんな経験を伝えることができるので、子どもたちとたくさん話しをしています。興味のある方は試合や練習を見に来てください。みんな笑顔がかわいいです。中国の子供たちの人懐っこさや明るさと負けん気の強さはとても印象的です。子どもたちへの指導は、基本的には日本と同じように接していますが、中国の子供たちに対して心がけているところもあります。例えば、「粘り強い対応が出来ず、すぐに反則をしてしまう」、「ミスしたとき、すぐに人のせいにしたり言い訳をしたりする傾向がある」、「チームより個人の意識が高い」というようなことに対して、フェアプレーの大切さをより強く理解させたり、ミスしたときはまず自分がもっとできることがなかったかを考えてさせたり、個人だけではなくチームの大切さを理解させたりしています。

最後になりますが、中国・広州でたくさんの人たちと交流しながら子どもたちやクラブ、中国サッカーが成長・発展できるように尽力してまいりますので、みなさんよろしくお願い致します。

菊原 志郎

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