広州人物図鑑

  • 「中国古代史に魅せられて」

!cid_3226E   柞山写真わたしの中国に対する思い入れはかなり古く、こどものころからあったようです。とはいっても、まだそれは三国志・水滸伝・西遊記といった、あくまでも物語世界の延長だったにすぎません。

現実のものになったのは、1980年のことでした。おりからの改革・開放で、中国の門戸が一般人にも開かれ、接触していた天津外国語大学から入国ビザが届いたのです。中国語の現地学習、3週間のサマースクールの開催を申し入れていました。10日足らずで定員の30名を集め、北京経由、天津到着、中国での生活と学習が始まりました。唐山大地震の痕跡がまだ残っていたころでした。

貧しくとも前向きで、礼儀正しく友好的な中国の先生や学生たちと直に接し、心の洗われるような、新鮮な思いに感動したものです。かれらにつられ双方とも、別れに際し涙する純朴な時代でした。

このサマースクールは、翌年から毎年、春期も加え、北京・西安・上海・廈門など各地の大学でも実施、やがて中国からの留学受け入れという相互交流へと発展、ビジネスとしても成功しました。

その後、ビジネスコンサルタントを志向していたわたしは、医療業界からの誘いに応じて転身、1985年、北京に常駐しました。教育部・衛生部・鉄道部などの直轄病医院を対象に、医療機材の販売や病院建築を請負う現地折衝の仲介コンサル業務です。ハルピンから海南島まで、経済特区はいうに及ばず、沿海14都市の衛生局や病医院を歴訪しました。旅先から、次の訪問先のアポを取る無謀さでしたが、快く対応していただけました。どこの街へいっても、危険な目にあった覚えがないくらいでしたから、まだ外国人の珍しい時代だったのでしょう。経済は順調に推移し、生活レベルも徐々に向上していましたが、日本側の要請があり、医療業務を切り上げ、帰国しました。

帰国後は日本を軸に、台湾のハンドバック生産、上海浦東の不動産売買、大連のピーナツ加工、ベトナム米の買付など、雑多な業務に追われていましたが、心は晴れませんでした。

年初に神戸大地震のあった1995年末、わたしは中国に復帰しました。心情的には、中国を終(つい)の棲家とするつもりで、広州の番禺スミダに赴任したのです。業務は自社のコイル生産以外に、ワーカー付きで工場スペースを進出企業に貸与する委託加工工場の管理運営サポートです。当時で4000人、最盛時には1万人超のワーカーを擁する労働集約型工場には圧倒されました。

虎門大橋が竣工し、広州東駅が開通、香港が祖国に返還された数年後、社内ベンチャーに手を挙げたわたしは、人材紹介事業を立ち上げ、広州の沙面に移りました。珠江新城がまだ草原だったころの話です。広州市内は高架道路を築き、幹線道路を拡張、高層ビルや地下鉄の工事が錯綜する、建設ラッシュに沸いていました。各所の工事現場から古代の遺跡がいくつも発掘されたのです。南越王墓は1983年に発見されていましたが、南越国や五代南漢国の王宮遺跡が続々と掘り起こされ、保存のため、広いテントで覆われた工事現場が、高架道路から散見されました。

21世紀に入り、進出日系企業向けよろず引き受けコンサルを始めたわたしは、余暇を見つけては、そうした古代の遺跡や名所旧跡を、足しげく見て回ったものです。

それが高じて華南の歴史に興味をもち、還暦を期に一念発起し、子月著『嶺南経済史話』(広東人民出版社)の翻訳を手がけ、やがて中国古代歴史小説の手習いを始めるに至った次第です。

いつの間にか20年が過ぎ、古参の残留高齢者に近づいています。北京をはじめ、いくつかの都市を巡ってきましたが、どうやら広州、それも番禺が気に入ったらしく、最終着地点になりそうです。

書きためた中国古代歴史小説は20作ほどになりました。恥ずかしながら、角川書店のWEB小説サイト「カクヨム」に、ペンネーム「ははそ しげき」で、掲載しています。一読三嘆、血湧き肉躍る歴史活劇を目指しています。宜しければ、ぜひ一度お目を通していただきたいと、思います。

小説は下記URLで無料で閲覧できます。
https://kakuyomu.jp/users/pyhosa

「墨絶(ぼくぜつ)」――刺客荊軻の始皇帝暗殺未遂事件にからむ墨家絶学の謎に挑戦
「南越王伝奇」、「南越王国の最期」、「趙始と媚珠」――広州(当時は番禺)の南越国史
「嶺南神犬伝」――南北朝~隋、八犬伝を生んだ盤古伝説と嶺南の聖母・冼夫人の救国説話
「ヤングエンペラー」――秦始皇帝の少年時代、お子様にもお勧めの冒険活劇
「越王の裔 東海を踏む」――越王勾践と范蠡の末裔が、古代日本に稲作を伝播?
「異聞南北朝 逢魔ヶ刻」――爾主栄・高歓の没後、侯景は乱を起こし、宇宙大将軍となる
「倭寇外伝 影流、海をわたる」――陰流の祖・愛洲移香斎の遺子が明の戚家軍に影流を伝授
「漫画原作版 神犬伝」――「嶺南神犬伝」を漫画の原作向きに、3分の1に縮小

以上10作を掲載中で、今後も地元嶺南に題材をとった以下の作品を掲載する予定です。

「羅浮山はるかに」――葛洪を軸とする仙人譚
「飛龍天にあり」――五代十国~南漢国、高祖劉龑
「胡妃南遷」――南宋は崖山の戦で滅亡、韶関の珠璣(しゅき)へ潜入した胡妃の南遷逃亡記
「マンチュリアン・ドリーム」――明末、東莞出身の袁崇煥とヌルハチとの戦い
「孫文蜂起」――恵州起義で戦死した山田良政の秘話

お暇な折に、どうぞお楽しみください。末永く、ご愛顧いただければ、幸いです。

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柞山茂克

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