広州人物図鑑
- 「お客様が本当に満足しているかが大切」
2013年にオープンし、在広州日本人のみならず、地元の中国人そして外国人客にも愛されている「リアカフェ」ことLia Café Bar & Restaurant。オーナー・店長の松山里絵さんに開店のきっかけ、お店のこだわり、そして将来の夢を伺いました。
——広州にはいついらっしゃいましたか?
松山里絵さん(以下、松山) 2009年5月です。フリーペーパー「ぽけっとページウィークリー(PPW)」の広州版に入社するために、上海から来ました。
私は大阪出身で大学での専攻は法学、在学中には英国に交換留学に行きました。学生時代にはまったく中国語は勉強していなかったのですが、大学を卒業後、台湾のエバー航空にCAとして入社、台湾駐在となり、少し中国語ができるようになったのが、中国語との出会いでした。
その後、上海航空に転職し、上海在住になりました。上海でロシア人の彼氏と出会い、お付き合いをしていたのですが、その彼氏が広州でビジネスを立ち上げるというので、私も広州についてきた、というのが広州に来るきっかけでした。だから、まったく広州に対する知識やこだわりはなかったんです(笑)。
——なぜ、リアカフェをオープンすることに?
松山 前職のPPWでは広告営業として2年半ほど働きました。私が広告営業を始めて、最初に広告を出稿してくれたのが、今のお店のビジネスパートナーであるユーニー・トランさんでした。
トランさんはベトナム出身オーストラリア育ちの華僑で、北京路に「タイガープラウン」というベトナム料理を出して大成功していました。毎日長蛇の行列ができる店で、特に「日本人客を呼びたい」という強い希望はなかったようなのですが、私と英語で会話するうちに「日本人の知り合いは初めてで、なんか面白そうだから」と、ほとんど興味本位で広告を出稿してくれました(笑)。
その後、トランさんが日本に行く時に「どこで買い物をしたらいいか教えて」などと聞いてきたり、トランさんと一緒に日本に行ったりするようになったりするうちに、私の実家が経営する飲食店にも来てくれるほど仲良しになったのです。
広州生活にも慣れ、彼氏が広州に長く住むことになったので、私も「広州に長く住みたい」と思うようになりました。それには、やはり自分で独立して何かビジネスをやりたい、と考えついたのが、カフェ経営でした。自分自身では飲食業の経験はなかったですが、実家がイタリアンレストランやベーカリー、そしてカフェをやっているので、何かを始めるなら、カフェがいいかなと思ったのです。
そして、すでに飲食業で成功しているトランさんに、自分から「カフェをやりたいから投資してほしい」とプレゼンしたのです。
トランさんは私の話を聞いて、すぐにOKを出してくれました。しかし、それにはいろいろな条件がありました。
まずは「メニューは品数を多く揃えること」、「特にデザートを必ず作ること」。そして、トランさんが何よりもこだわったのが、「美味しいラーメンを作ること」でした。トランさんは日本の一風堂のラーメンが大好き。「あのようなラーメンが食べられる店なら投資してもいい」というのが、最重要要件だったのです。
トランさんへのプレゼンから、2013年のオープンまでは約2年間の準備期間を要しました。まずは実家の飲食店でデザートについて勉強しました。そして、その後は四国のラーメン学校に入学し、勉強しました。その間、何度も広州に帰ってきて、学んだメニューを作ってトランさんに試食してもらったのですが、「全然ダメ」と言われるばかりでした。
その後、デザートはなんとか完成しましたが、ラーメンだけは「一風堂と全然違う」と全く合格が出ません。そこで、思い切って日本の一風堂でバイトしてみることにしました。一風堂はラーメンのスープなどをセントラルキッチンで作っているので、「味を盗む」のは無理ですが、オペレーションなど、内部に入ってみたら何かがわかるのではないか、と考えたのです。
このバイト先の副店長だったのが、リアカフェで活躍しているKENさんだったのです。KENさんは福岡出身で、セントラルキッチンになる前の時代から10年以上一風堂で働いており、スープの作り方にも詳しい。だから、「この人に是非広州に来て一緒にやってほしい!」と思って、広州でのヘルプをお願いしました。うれしいことに、KENさんも「海外は楽しそうだ」と言ってくれ、2013年2月に来広。トランさんもKENさんの作ったラーメンを食べて、「やっと美味しいラーメンができた」と言ってくれたのです。
その後5ヶ月間、KENさんにラーメンをしっかり教えてもらい、2013年7月のオープンにこぎつけました。
——お店を運営する上での苦労は?
松山 開店当初は、中国人スタッフに自分の要望を伝えるのにとても苦労しました。スタッフは一部、トランさん経営の「タイガープラウン」から来てくれた人もいましたが、カフェとはまったくオペレーションが違うので、戸惑っていました。そして、最初はなかなか私の言うことを聞いてもらえませんでした。
最初は直接怒ったりもしましたが、ある日「怒っても意味ないな」と気が付きました。国も、今までの経験も違う人に、なんとか言うことを聞いてもらえるにはどうしたらいいのか——、いろいろ考えて、「ただ怒るのではなく、相手にギャフンと言わせよう」と考えついたのです。
例えば、ラーメンのスープの材料を計る時に「スプーン一杯」と決めても、規定と違うスプーンで計ったり、すりきり一杯ではなく、山盛り一杯にしたり、ときっちり計らないスタッフがいました。「なぜそんなふうにしかできないのか」と言うと、「差不多(大差ない)」と言われました。そこで、「じゃあ、貴方の給料は5,000元だけど、来月は給料も差不多で4,500元でいいね」と言ったのです。それから、彼はきっちり計るようになりました(笑)。
私は、罰金制度はできるだけやりたくはないですし、「絶対にこうしろ!」というカリスマ性もありません。だから、皆には「こうしたいから、手伝ってほしい」というように接しています。そして、オンとオフを切り替えるというか、怒るときは怒るけど、それ以外は和気あいあいと皆が楽しく仕事できるように心がけています。
——在住日本人、そして地元の中国人にも愛される店になりました。お店が順調な秘訣は?
松山 まだまだ順調とは言えませんが…(笑)。
ビジネスパートナーのトランさんに言われて、一番大切にしている言葉は「お客さんが楽しそうにしているか、満足しているかをチェックすること」です。日本の飲食店経営だと、人件費率や収入が多い時間帯などのデータにこだわりますが、それよりも、お店で楽しそうにしている人に声をかけて「ビールもう一杯どうですか?」と言ったり、カレーを頼んだ人に「ライスも一緒にどうですか?」という声がけをマメにして、お客様に喜んでもらうよう努力することのほうが大切だ、と言うのです。「小さな積み重ねだが、商売とはそういうものだ」ということを学びました。
「お客様が本当に満足しているか」はとても重要だと思います。私達が日々努力している結果が口コミを生んで、大きな広告をしなくても、お客様が来てくれるようになりました。
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お客様で一番多いのは、地元中国人ですが、次に多いのはヨルダン、レバノンなど中東人で、実は日本人は3番目なのです。これも、中東人コミュニティで口コミが広がった結果です。「ハラルフードに対応している」「英語が通じる」「美味しいメニューがたくさんある」というように友達に宣伝してくれる中東のお客様が多く、初めて来店される方も「リアはいるか」と私をめがけて訪ねてくる人が少なくありません。
中東の皆さんは宗教上、お酒が飲めないので、マンゴージュースやコーラ、スプライトなどを召し上がっていましたが、それだけじゃつまらないだろうと思い、ラムネを導入して「日本のスプライトはどうですか?」と勧めたら、大喜び!さらに、日本ではやっていた「電球ソーダ」も始めてみたら、「リアカフェではすごいソーダが飲めるぞ!」と口コミで広がり、さらに多くの中東のお客様がいらしてくださるようになりました。当店はおかげさまで7年目を迎えましたが、このような日々の小さな工夫が、実を結んできた部分があるのかな、と思います。
——新しく挑戦したいことは?
松山 メニューを刷新したいですね。これまでも常に小さな修正はしてきて、3年ごとにメニューを一新しているのですが、さたに新しいメニューを作りたいです。中国の人も中東の人も“新しもの好き”。来店するごとに「新しいものある?」と聞かれますので、新しいメニューを常に用意して、お客様にさらに喜んでいただきたいです。
——2号店の計画は?
松山 ないですね。このメニューのボリュームで2つの店舗は回せないと思います。ビジネスパートナーのトランさんも「店舗を増やすと頭痛のタネが増えるだけ」と言っています。彼女の店も行列ができるほど流行っていますが、2店舗のみの体制を守っています。
もしも出店するなら、中国以外の国のどこかの都市でやってみたいですね。広州は東南アジアへのアクセスも便利だし、中国以外にもう一つ、往来できる国があったら楽しいですよね。広州でも言葉がわからないところから、小さなチャレンジを積み重ねてきました。だから、他の国に行ったら、また新しいチャレンジができるかな、と思います。そして、広州店のスタッフにも海外で働くチャンスを与えてあげられたら、より良いな、と思います。